山の上にある大池



大池をつくった箭山(ややま)太郎伝説
大昔のことじや。
箭山(いまの八面山)に山守りの夫婦がすんでおった。
ふたりは、もう何千年も生きてきた年よりじゃったそうな。
それで、じいさまのかみの毛は、雪よりも白く、からだは年とった松のように、がっちりしておったそうな。
ばあさまは、なん千年も生きてきたのに、肌はうつくしく、目はいつもやさしくわらってあったということじや。
まだ、箭山がいきおいよく煙りをはいていた若いころ、ふたりはいっしょに、よく由布岳や阿蘇山へ狩をしにいったものだった。でもな、年をとってからは、山のいただきからながれてくるかすみをすっては、しずかにくらしていたそうじや。

また、たいくつなときは、阿蘇山や英彦山にすんでいるじいさまたちと、おたがいにむかし話をしたりして、すごしていたそうな。
ところでの、このじいさまとばあさまには、太郎というひとりのむすこがおってな。年をとったふたりのねがいは、はやく太郎がりっぱな嫁をもらって、この山をじぶんたちのかわりにまもってくれることじやつた。
「太郎や、はやく大きくなってくれよ。」というふたりのねがいのとおり、太郎はすくすく大きくなっていった。
そうそう、背のたかさも一文三尺(約4メートル)にもなって、ふたりが若かったころのように、とおくに狩にいっては、大きなえものをとらえてきて、自慢しておったそうじや。

太郎はまた、たいへんな力もちで、小山ほどもある大石をもちあげては、英彦山や、求菩提山めがけてほうりなげ、ひとりで遊んでおった。
そんな太郎を見て、じいさまとばあさまは、「太郎や、おまえもりっぱに大きくなったのだから、はやく嫁をもらわぬか。」と、ふたりでなんどとなくすすめたが、太郎はあいかわらずまい日 野山をかけめぐってすごしていた。

ある日のこと。太郎がいつものように、弓矢を手に、山のふもとをあるいていくと、川の中で水あそびをしているひとりのわかい娘が目にとまった。
太郎はそっと川に近づき、岩かげから娘の泳ぐようすをながめやった。
太郎は、娘のあまりの美しさに、おもわずうなってしまったそうな。そして、(嫁をもらうならあんな美しいむすめをもらいたい。いや、あの娘を、ぜひ嫁にしたい。)と、心にきめ、娘に声をかけた。
すると、おどろいた娘は、はるか川下の佐知のほうへ泳いでいってしまった。
その夜、太郎はひさしぶりに髪をけずり、石はさみでひげを切った。
風もなく、山がしずかになった真夜中になると、太郎はさっそく山をおり、娘のすんでいる佐知にむかったそうな。
やっと娘のすんでいる家を見つけだした太郎は、娘が佐知姫であることを知った。

それからというもの、太郎は、佐知姫のところへかよいつづけたそうじや。
佐知姫をおもう太郎の気もちは、やがて姫にもつうじたとみえる。太郎は、めでたく佐知姫と結ばれたのじゃと。
それからは、ふたりなかよく箭山をまもっていったそうな。

太郎は、姫が水泳ぎが好きなことから、姫のために、さっそく山のいただきに大きな池を造ってやっての、姫に水泳ぎをたのしませたということじゃ。
いまでも、箭山(八面山)の山頂には、太郎がつくったといわれる大池がのこっている。

                 偕成社発行 大分県の民話より



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