別府市の山手に明礬という村がある。ある日、一人の男がその山にやってきた。ひとやすみしていると、一羽のトビが空を回りはじめた。その飛び方がどうもおかしい。
そうしているうちに、そのトビはむこうのくぼ地にまいおりた。しばらくして、空に飛びたちゆっくり消えていった。
その日はべつに気にもとめなかったが、その後、その近くを通るたびにトビがいるのに気づいた。
ある日、トビのいるあたりにそっと近づき、のぞいてみた。すると、そのあたりに湯がわき出ていた。その湯の中に、あのトビが足をひたしていた。よく見ると、トビは足にけがをしているようであった。
トビは、次の目もその次の日もやってきて、その足を湯にひたしていた。
ひと月ほどたったころ、トビはうれしそうに湯からあがると、ひと声高くないて空に高くまいあがった。けががなおったのであろう。
そこで男は、はじめて村人たちにその話をした。村人たちは、トビにきく湯なら人間にもきくにちがいないと、そこに湯治場(温泉場)を作った。
トビが見つけた湯だから、今でも 「トビの湯」と呼ばれているが、残念ながら先年の台風で流され今では跡地だけが残っている。