菅尾磨崖仏




石仏伝説
三重町に国指定史跡の菅尾石仏がある。岩権現とも呼ばれ、岩壁にみごと
な磨崖仏が並んでいる。十一面観音、阿弥陀如来、薬師如来、千手観音の坐像四体と多門天の立像である。
だが、構成から考えてみると、多門天と対になるべきもう一つの立像があってしかるべきだろう。そこで伝説が生まれた。

ずっと大昔、菅尾村にどこからか鬼がやってきました。その鬼は、作物を奪い、物を盗み、子供をさらったりと悪行のかぎりをつくしていたので、村人たちは生きた心地もしない毎日を送っていました。

ある日の夕方、この村の村長の家に身なりの汚い旅僧がやって来て宿を乞いました。村長は、汚い身なりを気にするでもなく旅僧を招き入れて宿を貸しました。

その夜、村人たちの暗さに気づいた旅僧が、村長にその理由を聞きました。そこで村長は、涙ながらに鬼の悪事を旅僧に相談しました。その話を聞いた旅僧は、「これも何かの縁でしょう、私が何とかしてみます」と言うと出て行きました。

しばらくすると旅僧が帰ってきて言いました。
「鬼を説得してみましたが、いっこうに道理を聞きわけません、仕方がないので、一夜のうちに仏像五体を岩に刻みつけられなければ、法力で祈り殺すぞと脅してきました、しかし、鬼はもしその難問が出来たら村長の娘をよこせと言うのです」旅僧は絶対に出来るはずがないと確約しましたが、村長は気が気でなく、鬼が仕事にかかるまで旅僧に滞在してもらうことにしました。

その翌晩、鬼の住み家の方でのみを打つ音が聞こえ始めました。村長は、恐ろしさも忘れて、のみの音を便りに暗い夜道を辿ってその方へ近づいて行きました。鬼は、ものすごい速さで見事な仏像を彫っていました。

村長は岩陰に隠れてそれを見ていましたが、四体目の終った時に、ヒョイと気がついて見ると、その時はまだ夜半で夜明けまでにはまだ大分間があります。夜が明けるまでに仏像五体が完成すると、娘を鬼に取られてしまいます。これは大変だと、一目散に駆けて帰り旅僧に訴えました。旅僧はそれを聞くと笠を持ち、そのまま村長を連れて現場に駆けつけましたが、その時はもう五体目が途中まで出来ていました。

旅僧はこれを見ると、笠をバタバタとさせてコッケコーロと叫びましたが、それは鶏の鳴き声そっくりでした。鬼もこれを聞いて夜明けも近いと思い込み、祈り殺されてしまうとあわてて逃げてしまいました。

菅尾石仏の五体目が未完成になっているのは、こんな訳だとさ。


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